鈴木俊貴動物言語学者シジュウカラの話が中学教科書掲載!その内容について調べてみた

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ふと窓の外を眺めたとき、あるいは通勤・通学の道すがら、鳥たちのさえずりを耳にして「彼らは一体何を話しているんだろう?」と想像したことはありませんか?

多くの人が一度は抱くその素朴な疑問に対し、科学的なアプローチで衝撃的な答えを導き出した人物がいます。それが、動物言語学者の鈴木俊貴(すずき としたか)先生です。

鈴木先生の研究対象は、身近な小鳥である「シジュウカラ」。 これまで「言葉(言語)を持つのは人間だけである」というのが科学界、ひいては人類の常識でした。しかし、鈴木先生の研究によって、その常識が覆されようとしています。シジュウカラは単に鳴いているのではなく、単語を使い、さらには文章を作って会話をしているというのです。

この画期的な発見は世界中を驚かせ、ついに日本の教育現場、中学校の教科書にも掲載されることになりました。なぜ、一種類の鳥の研究がそこまで重要視されるのか? 教科書には何が書かれているのか?

今回は、話題の「動物言語学」と、教科書掲載の背景にある深い内容について、徹底的に調べてみました。


鈴木俊貴動物言語学者

まず、この常識外れの研究を成し遂げた鈴木俊貴先生とは、一体どのような人物なのでしょうか。

鈴木先生は、現在、東京大学先端科学技術研究センターの准教授を務めています(記事執筆時点)。しかし、彼の研究スタイルは、研究室に閉じこもって論文を書くといった従来のアカデミックなイメージとは少し異なります。

「鳥の言葉」を解明するために森へ

彼は、一年の多くの時間を長野県の森の中で過ごします。野生のシジュウカラを観察するために、なんと森の中に小屋を建て、そこを拠点に徹底的なフィールドワークを行ってきました。「鳥の気持ちになる」ために、時には鳥の視界や行動範囲を模倣し、何千時間、何万時間という膨大な時間を観察に費やしています。

世界初のアプローチ「動物言語学」

鈴木先生の肩書きにある「動物言語学(Animal Linguistics)」という言葉。実はこれ、彼が世界に先駆けて提唱し、切り開いている新しい学問分野です。 これまでの動物行動学では、鳥の鳴き声を「感情の表出(求愛や威嚇など)」として捉えるのが一般的でした。しかし、鈴木先生はそれを「言語」として捉え直し、単語の意味や文法構造を解明しようと試みたのです。

メディア出演時の気さくなキャラクターや、シジュウカラへの愛が溢れすぎるあまりのユニークな発言も人気ですが、その裏には、ダーウィン以来の生物学のドグマ(定説)に挑む、極めて緻密で論理的な科学者の姿があります。


シジュウカラの話

では、鈴木先生が解き明かした「シジュウカラの話」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。ここが今回の記事の核心部分であり、最も面白いところです。

1. シジュウカラには「単語」がある

シジュウカラは、状況に応じて異なる鳴き声を使い分けています。鈴木先生の研究により、以下のような「名詞」や「動詞」に相当する鳴き声があることが判明しました。

  • 「ジャージャー」:ヘビ(ヘビがいるぞ!)
  • 「ヒヒヒ」:タカ(タカが来たぞ!)
  • 「ピーツピ」:警戒しろ
  • 「ヂヂヂヂ」:集まれ

これらは単なるびっくりした時の悲鳴ではありません。例えば、「ジャージャー」という鳴き声を聞かせると、シジュウカラは地面や茂みの中など「ヘビがいそうな場所」を探します。一方、「ヒヒヒ」を聞かせると、上空を警戒したり、ヤブの中に逃げ込んだりします。 つまり、彼らは鳴き声(音声)を聞いて、対象物(イメージ)を頭の中に思い浮かべているのです。これは人間が「リンゴ」と聞いて赤い果実を思い浮かべるのと全く同じ機能です。Japanese Tit birdの画像

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2. シジュウカラには「文法」がある

さらに驚くべき発見は、彼らがこれらの単語を組み合わせて「文章」を作っていることです。

シジュウカラは、仲間を呼び寄せて追い払いたい時などに、 「ピーツピ(警戒しろ)・ヂヂヂヂ(集まれ)」 という順序で鳴きます。これを聞いた仲間は、警戒しながら集まってきます。

鈴木先生がこの順序を人工的に入れ替えて、 「ヂヂヂヂ(集まれ)・ピーツピ(警戒しろ)」 という音声を流したところ、シジュウカラは全く反応しませんでした。単語の意味は理解していても、語順(文法)が間違っていると意味が通じないのです。

「単語を特定のルール(文法)に従って組み合わせ、新しい意味を作る能力(統語能力)」は、これまで人間に固有のものだと考えられてきました。鈴木先生は、この能力が小さな鳥にも備わっていることを世界で初めて証明したのです。


中学教科書掲載!

この革命的な研究成果は、令和3年度(2021年度)から使用されている中学校2年生の国語の教科書(光村図書)に採用されました。 タイトルは**『「言葉」をもつ鳥、シジュウカラ』**です。

なぜ理科ではなく「国語」なのか?

ここで興味深いのは、この題材が理科ではなく「国語」の教科書に載っている点です。 国語教育における「説明文」の教材として採用されたのですが、そこには大きな意義があります。

  1. 「言葉とは何か」を問い直す 中学生という多感な時期に、「人間だけが特別ではない」「言葉とは人間だけの専売特許ではない」という視点を持つことは、生徒たちの世界観を大きく広げます。自分たちが普段使っている「言葉」の定義そのものを客観的に見つめ直すきっかけになるのです。
  2. 論理的な思考プロセスを学ぶ 鈴木先生の文章は、非常に論理的です。「仮説を立てる」→「実験方法を考える(合成音声を使うなど)」→「結果を検証する」→「結論を導く」という科学的な思考プロセスが、明快な日本語で記述されています。事実と意見を区別し、論理の展開を追う国語の訓練として最適なのです。
  3. 身近な自然への眼差し シジュウカラは、日本のどこにでもいる鳥です。教科書を読んだその日から、通学路や校庭から聞こえる鳥の声が、単なる「雑音」から「意味のある会話」へと変わります。日常の景色を一変させる力が、この文章にはあります。

教科書の中では、鈴木先生がどのようにしてシジュウカラの言葉のルール(文法)を見つけ出したのか、その実験の様子が臨場感たっぷりに描かれています。


その内容について調べてみた

教科書掲載の内容からさらに踏み込んで、鈴木先生の研究が示唆する未来や、私たちがここから学べることについて深掘りしてみました。

「動物と話せる日」は来るのか?

鈴木先生の研究が進めば、いつか私たちは動物と会話ができるようになるのでしょうか? 鈴木先生自身は、「動物の言葉を人間語に翻訳する」だけでなく、「動物の認知世界そのものを理解する」ことを目指しています。

最近の研究では、シジュウカラだけでなく、他の鳥類(コガラなど)とも「異種間会話」をしている可能性が示唆されています。森全体が、実は巨大なコミュニケーションのネットワークで繋がっているのかもしれないのです。

私たちの人間観を変えるインパクト

「言葉は人間性の証である」という考え方は、古くから哲学や宗教、科学の根底にありました。しかし、シジュウカラの話は、その特権的な地位を人間から引き剥がします。 これは怖いことではなく、**「人間もまた、自然の一部であり、動物の一種に過ぎない」**という、謙虚で豊かな視点を私たちに与えてくれます。

鈴木先生の研究を調べてみて分かったのは、これが単なる「鳥の豆知識」ではなく、私たちが他者(他種)をどう理解し、どう共生していくかという、現代社会における重要なテーマを含んでいるということでした。

教科書でこの話を読んだ中学生たちが、将来大人になった時、自然環境や動物に対する接し方は、今の私たちとは全く違う、より洗練されたものになっているかもしれません。


まとめ

鈴木俊貴先生によるシジュウカラの研究は、「鳥が単語や文法を操っている」という驚きの事実を明らかにしました。そして、その発見が中学教科書に掲載されたことは、次世代の子供たちが「言葉」や「自然」に対する新しい価値観を持つ大きなきっかけとなっています。

もし、外を歩いていて「ツツピー、ツツピー」や「ヂヂヂヂ」という声が聞こえたら、ぜひ立ち止まってみてください。それはただの鳴き声ではなく、彼らの大切な会話かもしれません。

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